連載:2027年への羅針盤——易経で読む地政学と経営
第6回(最終回)/ 2026-06-05
この連載について
世界の地政学的変動を、易経の卦で読み直す。国家・指導者・地域の動きを卦に当てはめることで、データが示す数字の「奥」にある構造を経営判断に活かす。全6回。
この連載の軸:外の世界が坎・否・剥になるほど、自社の内側に地天泰を作れる経営者だけが次の時代を開く。
この連載の全体像
第1回:坎為水(日本)——二重の危機を抜ける経営
第2回:地水師(中国)——動かないことが最大の戦略
第3回:天水訟(ロシア)——争いで得た地位は尊ばれない
第4回:沢風大過(北朝鮮)——梁が撓むとき
第5回:水地比(アメリカ)——自己を失わない同盟
▶ 第6回(今回):七者の卦が告げる正念場——2027年を経営者はどう読むか(地天泰)
七者の占断が描く世界の地図
七者の占断結果を並べると、一枚の地図が浮かぶ。
| 国・人物 | 卦(爻) | 占断の読み | 2027年への動き |
|---|---|---|---|
| 日本 | 坎為水(29)六四爻 | 石油・食料・軍事の三重の坎 | 食料×エネルギー連鎖が本格化 |
| 中国 | 地水師(7)六四爻 | 条件が揃えば南から動く | 「条件が整う」を待ち続ける |
| プーチン(個人) | 天水訟(6)上九爻 | 勝っても奪われる、安定の出口がない | 国家資産が枯渇、北方圧力を継続 |
| ロシア国家 | 天水訟(6)六四爻 | 争いから退き使命に戻れば吉への道がある | 収束か転換か——個人と国家が分岐する |
| 北朝鮮 | 沢風大過(28)九三爻 | 朝鮮半島を騒擾させる | 核偏重構造の限界が露わに |
| アメリカ | 水地比(8)六二爻 | 内が失われ、同盟の実質が問われる | 取引型同盟の再編・「自己」を問われる |
| イスラエル | 風山漸(53)三爻 | 中東で米国を拘束し続ける | ガザ・レバノン戦線の長期化 |
連載に登場しなかった二者——中東と欧州
表の七者のうち、イスラエルと欧州は専用回を持たない。それぞれの構造を補足する。
2026年、イスラエルの占断結果は風山漸(第53卦)三爻——中東で米国を拘束し続ける。漸は「次第に進む」の卦。三爻「鴻漸于陸(鴻が陸に止まる)」は行き場なく留まる象だ。ガザ・レバノンの戦線が続く中、イスラエルの軍事行動はアメリカの外交資源を中東に縛り付け、漸進的に米国の戦略的自由度を削いでいる。
欧州は火水未済(64)の象だ。渡りきっていない。ロシアへのエネルギー依存の解消、NATO負担増、難民・移民問題——複数の「未済」が同時並行している。ただし未済の卦辞は「亨、小狐汔済、濡其尾、无攸利」——小さな狐が川を渡りきる直前に尻尾を濡らす。焦りが失敗を招く。
七者の卦を並べると、一つの構造が見える——「外は軒並み険・剥・過大・争い」だ。
易学の視点:地天泰——外が乱れる時に内を作る
七者の分析を経て、最後に示す卦は「地天泰(第11卦)」だ。
坤(地)が上にあり、乾(天)が下にある。天(軽い・上昇する)が下にあり、地(重い・下降する)が上にある——二つの力が互いに向かい合って交わる。上下が「閉じる」のではなく「交感する」象だ。小往大来——小さいものが往って大きいものが来る。
卦辞はこう言う——「泰、小往大来、吉亨。」
象伝は「天地交泰(天地が交わって泰となる)」。続けて「財成天地之道、輔相天地之宜(天地の道を財成し、天地の宜しきを輔相する)」——天地の働きを形にし、補い合う。
地天泰は「外が整っているから内が安定する」という卦ではない。外が剥(崩壊)・否(閉塞)でも、内側で天地が交感していれば泰は成立する。これが易経の最も根本的な洞察だ。
外の世界が坎・否・剥であっても、自社の内側に地天泰を作れる経営者だけが次の時代を開く。
2027年、経営者はどこを見るか
データが示す2027年の輪郭はこうだ。
食料×エネルギー連鎖(第1回)は2027年秋〜冬にかけて経済統計に現れ始める。中国の「左次」がいつ終わるかは予測不能だが、台湾問題は2027〜2028年がウィンドウとして意識されている(RAND分析)。ロシアは財政の限界から何らかの転換を迫られる。北朝鮮の核偏重は国内民生の崩壊を加速させる。アメリカとの同盟の再定義は静かに、しかし確実に進む。
外部環境の「大過・訟・坎」が重なる局面が、2027年前後に同時に来る。
この時、経営者に問われるのは一つだ——「自社の内側に、地天泰はあるか。」
地天泰を作る五つの実践
実践①(攻):乾(判断・陽)と坤(基盤・陰)の両方を持つ
乾=攻め(判断・スピード・方向性)と坤=守り(人・財務・信頼)を意図的に両立させる。どちらかだけでは天地は交感しない。
実践②(攻):外の混乱を「内部整備の機会」として読む
競合が外の波に揺れている時期こそ、自社の内側を静かに整える好機だ。外が剥のとき、内が充実している企業だけが次のサイクルで泰に入る。
実践③(守):「小往大来」——小を手放して大を受け取る準備をする
固執してきた事業・慣行・関係のうち「小」に分類されるものを一つ特定し、手放す準備をする。手放すことで「大」が入る余地が生まれる。
実践④(守):「輔相天地之宜」——仲間を補い合う組織を作る
象伝の「補い合う」原則を組織に適用する。一人の判断に集中しすぎない。異なる視点・立場の人が互いに補い合う構造を持つことが、外の混乱に対する最強の守りだ。
実践⑤(攻守統合):毎年、「自社の卦」を問い直す
「今、自社は何の卦の象の中にいるか」を年に一度、経営者自身が問い直す。卦は固定されない。内側の在り方次第で、坎の中でも泰の方向へ進める。
連載の結びに
易経は3,000年前に書かれた。しかしその洞察は「外部環境をコントロールするな、内側の在り方を整えよ」という一点に収斂する。
坎(二重の危機)の中で動じない。師(戦略的待機)で内を蓄える。訟(争い)に引きずられない。大過(梁の撓み)に気づく。比(親しみ)で自己を失わない。
五つの卦が示す教訓は、どれも「外ではなく内」を指している。
2027年への羅針盤は、外の地図ではない。自社の内側の地図だ。
「天地交、泰。」——天地が交われば、泰。
(易経 第11卦 地天泰 象伝)
※本稿はRAND Corporation台湾分析・防衛省防衛費見通し・SIPRI・38 North・農林水産省データを総合的に参照しています。
※本連載で使用している易卦(卦・爻)は、筆者が実際に本卦占断を行った結果に基づいています。
連載「2027年への羅針盤——易経で読む地政学と経営」全6回 完 / 易stratgy.lab / 2026年6月5日

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