連載:2027年への羅針盤——易経で読む地政学と経営
第2回 / 2026-06-05
この連載について
世界の地政学的変動を、易経の卦で読み直す。国家・指導者・地域の動きを卦に当てはめることで、データが示す数字の「奥」にある構造を経営判断に活かす。全6回。
この連載の軸:外の世界が坎・否・剥になるほど、自社の内側に地天泰を作れる経営者だけが次の時代を開く。
この連載の現在地
第1回:二重の危機を抜ける経営——石油・食料連鎖の処方(坎為水・第29卦)
▶ 第2回(今回):動かないことが最大の戦略——中国の20年待機が教えること(地水師・第7卦)
連載:2027年への羅針盤——易経で読む地政学と経営
第2回 / 2026-06-05
20年間、中国は「動かなかった」
2026年5月、プーチンが北京を訪問した。議題の中心の一つは「シベリアの力2」パイプライン——ロシアから中国へ天然ガスを送る西回りルートの合意だった。
結果は「明確な実施スケジュールは未合意」(クレムリン報道官ペスコフ)。覚書から20年、未実現のままだ。
なぜ中国は動かないのか。能力がないからではない。必要がないからだ。
中国はこの20年で、LNG調達ルートを多角化し(カタール・オーストラリア・アフリカ)、国内再生可能エネルギーを急拡大し、原子力発電所を増設し続けた。ロシアへのエネルギー依存を戦略的に回避し続けた結果、今やロシアの方が中国を「必要としている」構造になっている。
台湾問題でも同様だ。CSIS専門家79名調査(2025年12月)では、77%が「中国は米国が台湾政策で譲歩すると見ている」と回答。68%が「中国は米国の台湾防衛コミットメントが弱まったと認識している」と見る。中国は焦らない。条件が整うのを待っている。
動かないことが、最大の戦略になっている。
易学の視点:地水師——左次の判断力
2026年、中国の占断結果は地水師(第7卦)六四爻——条件が揃えば南から動く。その卦が示す構造を読む。
坤(地)が上にあり、坎(水・軍)が下にある。軍を地の下に蓄える象だ。師(軍)とは、力を内に秘め、統率を保ちながら動く組織の在り方を示す卦だ。
六四爻がその核心を言う。
「師左次、无咎。」
(易経 第7卦 地水師 六四爻)
象伝は「左次無咎、未失常也」——「左(防御・待機)に陣を敷いて进まない。咎なし。常(正しい原則)をまだ失っていないから。」
「左次」とは、軍が前進せずに左の防御陣地に留まることだ。これは敗走でも消極でもない。常を失わないための積極的な待機だ。
中国がロシアのパイプラインを断り続け、台湾有事の「最良の条件」を待ち続けているのは、この左次の構造だ。外から見れば「動いていない」。しかし内側では力を蓄え続けている。
地水師と水地比(第8卦)は対卦だ。同じ坎と坤を上下逆に持つ。師(軍・力)と比(連帯・結びつき)——動く力と結びつく力、この二つの間に経営の真髄がある。
「左次」を経営に取り込む四つの実践
実践①(攻):動かない間に内部基盤を積み上げる
外が混乱している時期こそ、人材育成・業務標準化・財務の体力強化に集中する好機だ。競合が外の波に振り回されている間、内側を静かに整えた企業が次のサイクルで一気に出る。これが左次の攻めだ。
実践②(攻):20年単位で「依存しない構造」を設計する
中国がロシアへのエネルギー依存を20年かけて解消したように、特定の取引先・調達先・市場への依存を段階的に分散する。一年では動かせないが、5年・10年で設計できる。今年、その設計を始めるかどうかが分かれ目だ。
実践③(守):「動くべき時」の条件を先に決めておく
左次は永久に待つことではない。「この条件が揃ったら動く」という基準を平時に決めておく。条件なき待機は意思決定の先延ばしだ。条件ありの待機が左次だ。
実践④(守):外の混乱に引きずられて動いたコストを計算する
過去3年で「外の状況に反応して」行った投資・採用・撤退のうち、今振り返って「あれは左次すべきだった」と思うものを一つ特定する。その損失額を出す。次の「動かない判断」の根拠になる。
「未失常也」——常を失わなければ、待つことは正しい。
外が騒がしいほど、「何かしなければ」という焦りが経営者を動かす。しかし中国の20年が示すのは、動かないことそのものが戦略になる局面があるということだ。その判断を支えるのは、常(自社の原則)への信頼だ。
※本稿はCSIS専門家調査(2025年12月・79名)・クレムリン報道発表(2026年5月)のデータに基づきます。
※本連載で使用している易卦(卦・爻)は、筆者が実際に本卦占断を行った結果に基づいています。
連載「2027年への羅針盤——易経で読む地政学と経営」 / 易stratgy.lab / 2026年6月5日

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