連載:2027年への羅針盤——易経で読む地政学と経営
第5回 / 2026-06-05
この連載について
世界の地政学的変動を、易経の卦で読み直す。国家・指導者・地域の動きを卦に当てはめることで、データが示す数字の「奥」にある構造を経営判断に活かす。全6回。
この連載の軸:外の世界が坎・否・剥になるほど、自社の内側に地天泰を作れる経営者だけが次の時代を開く。
この連載の現在地
第1回:二重の危機を抜ける経営(坎為水・第29卦)
第2回:動かないことが最大の戦略(地水師・第7卦)
第3回:争いで得た地位は尊ばれない(天水訟・第6卦)
第4回:梁が撓むとき(沢風大過・第28卦)
▶ 第5回(今回):自己を失わない同盟——アメリカとの関係に易経の答えがある(水地比・第8卦)
「同盟」は、自分を失うことではない
2025年末以降、米国の対外政策は「取引型同盟」の性格を強めている。NATO各国への国防費2%要求の強化、日本・韓国への駐留経費増額圧力、インド太平洋安全保障の再評価——いずれも「同盟は無条件ではない」というシグナルだ。
日本のGDP比防衛費は2027年度に約2%(6兆円超)に達する見通し(防衛省)。日米同盟の再定義が実質的に進んでいる。
この変化を前に、多くの論者は「アメリカに依存するな」または「アメリカについていくしかない」の二択で語る。しかし易経は第三の答えを示している——自己を失わずに親しむという在り方だ。
易学の視点:水地比——比すれども、自己を失わず
2026年、アメリカの占断結果は水地比(第8卦)六二爻——内が失われ、同盟の実質が問われる。その卦が示す構造を読む。
坎(水)が上にあり、坤(地)が下にある。水が地に浸透し、地が水を受け入れる——相互に比(したしむ・寄り添う)の象だ。孤立と支配の中間にある「対等な親しみ」の卦だ。
卦辞はこう言う——「比、吉。原筮、元永貞、无咎。不寧方来、後夫凶。」「比(親しみ)は吉。根本に立ち返って占え。元・永・貞(根本の大きさ・変わらぬ本質・正しい原則)があれば咎なし。落ち着かない方向から来れば後になって凶だ。」
六二爻がその核心を語る。
「比之自内、貞吉。」
(易経 第8卦 水地比 六二爻)
象伝は「比之自内、不自失也」——「内側から比(親しむ)。自己を失わない。」
外から押しつけられて「比する(従う)」のではなく、内側の自己を持ったまま相手と親しむ——これが比の正道だ。「不自失」——自分を失わないことが、長い関係の根拠になる。
日米同盟でも企業間提携でも、この法則は変わらない。自己を失った親しみは、相手が変わった瞬間に崩れる。内側に「元永貞(根本の大きさ・変わらぬ本質・正しい原則)」がある関係だけが、外部環境の変化を乗り越えられる。
「自己を失わない関係」の四つの実践
実践①(攻):提携先・取引先との関係を「比之自内」で点検する
主要な提携先・取引先との関係を一つ選び、「自社が何を持ち込んでいるか」を言語化する。相手の規模や力に飲み込まれ、自社の役割が「追随」になっていないか。内側から比することで初めて対等な関係が成立する。
実践②(攻):「不寧方来」を避ける——不安から始めない
卦辞の「不寧方来、後夫凶」は、不安・焦り・恐怖から結ぶ関係は後になって凶だと言う。危機の時に慌てて組む業務提携・資本提携・人脈形成は、条件を見誤りやすい。落ち着いて選ぶ余裕を持つために、平時に選択肢を作っておく。
実践③(守):自社の「元永貞」を文章にする
元(何のために存在するか)・永(何があっても揺らがない本質は何か)・貞(何が変わっても守る原則は何か)——この三つを一枚の紙に書く。これが「比之自内」の土台だ。書けない時、自社はすでに外部に揺さぶられている——そして、書けない状態のまま集めた人間は、同じ外部変化で離れていく。
実践④(守):長期取引先の関係に「不自失」の原則を持ち込む
長い付き合いほど「相手の言いなり」になりやすい。毎年一度、長期取引先との関係に「自社が提供している独自価値」を再確認する。相手が変わっても自分が変わらなければ、関係は続く。
「不自失也」——自己を失わない。
同盟も提携も契約も、自分を持った者だけが長期的に吉を得る。水が地を潤すのは、水が水であるからだ。水が地になってしまったら、何も起きない。
※本稿は防衛省2027年度防衛費見通し(2025年末時点)・NATO防衛費2%要求経緯(RAND Corporation分析)に基づきます。
※本連載で使用している易卦(卦・爻)は、筆者が実際に本卦占断を行った結果に基づいています。
連載「2027年への羅針盤——易経で読む地政学と経営」 / 易stratgy.lab / 2026年6月5日
連載「2027年への羅針盤——易経で読む地政学と経営」 / 易stratgy.lab / 2026年6月5日

Comments are closed