孤独担当大臣が生まれた国で。易経が3000年前に示した、本当の「比」

連載:なぜ、こんな時代になったのか ――人間心理から読む2026年の地図

**第4回 / 2026-06-03**

 

この連載の軸:
見えるものと見えないもの、どちらに寄りすぎても見失うものがある

 

孤独が、制度になった

 

日本に孤独担当大臣が誕生したのは、2021年2月のことだ。菅政権下で設置された、英国(2018年)に次ぐ世界2例目の専任閣僚ポストである。2023年には米国の公衆衛生総監が「孤独の流行(epidemic of loneliness)」を正式な危機として宣言した(※1)。同年、日本でも孤独・孤立対策推進法が施行されている(※2)。
つながりの欠如は、今や医療と行政が対処すべき問題になった。
市場はすでに動いている。月額制のオンラインコミュニティ、有料ソーシャルクラブ、企業が主催する交流イベント。つながりは商品として整備され、購入できるようになった。しかし、孤独の数字は減っていない。

 

易経が描く「比」という関係

 

易経に「比」という卦がある。水地比——水が大地にゆっくりと染み込んでいく状態だ。人と人が深く馴染み、信頼が地に根を張っていく。比卦はこう問う。
「親しむべきでない人と親しむことは、また傷つくことではないか」
と。
商品化されたつながりは、水が器を変えているに過ぎない。大地に染み込まない。接触の回数は増えても、根が張らない。関係性は浅いまま、表面を流れていく。

 

土壌がなければ、水は染み込まない

 

組織の中でも同じことが起きている。福利厚生を整え、イベントを増やし、コミュニティ設計に投資する。それでも人が根付かないとしたら、問うべきは仕組みではなく、誠意が染み込む土壌があるかどうかだ。

 

人数ではなく、一人と深く関わること。それが比の始まりだ。

 

 

**出典・参考資料**

 

※1 米国公衆衛生総監 Vivek Murthy「Our Epidemic of Loneliness and Isolation」(2023年)
※2 孤独・孤立対策推進法(2023年5月施行、内閣官房)

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