連載:なぜ、こんな時代になったのか ――人間心理から読む2026年の地図
第7回(最終回)/ 2026-06-03
この連載について
この連載は、目に見えるものと見えないものが同時に存在する世界での、確かな歩き方を探ります。
この連載の軸:見えるものと見えないもの、どちらに寄りすぎても見失うものがある
削り続けた先に、削ってはいけないものがある
コスト削減の圧力は止まらない。物価が上がり、人件費が上がり、エネルギー代が上がる。利益を守るために、どこかを削らなければならない。
しかし削りながら、ふと思うことがある。「これは削っていいのか」と。数字を合わせるために削った何かが、実は自社の根だったのではないか——そういう不安が頭をよぎる。
易経「頤(い)」は、この問いに3000年前から向き合ってきた。何を養い、何を削るか。その判断が、会社の未来の形を決める。
数字が示すもの
食費が家計を圧迫している。エンゲル係数は全世帯で3〜4ポイント上昇し(※1)、収入帯に関わらず食費の占める割合が増えた。93.5%が「1年後も物価は上がる」と確信し(※2)、食費支出が増えた家計の比率は3年連続で拡大し続けている(※3)。
これは数字の変化ではなく、生活の重心の変化だ。
易経「頤(い)」——養うこと
易経に「頤(い)」という卦がある。山雷頤——口の象、養うこと。頤は問う。「何を食べ、何で自分を養っているか」と。
食費が生活を圧迫し始めるとき、人は削ることを選ぶ。外食を削り、旅行を削り、娯楽を削る。それは理にかなった判断だ。しかし頤卦はこう言う。「養いを観るとは、何で養うかを観ること」——削るものの中に、削ってはいけないものがある。
誰と食べるか。何のために食べるか。食卓は、生きることの縮図だ。
問いは、組織にも向けられる
頤の問いは、個人だけに向けられているのではない。
コスト削減の名の下に、人を養う仕組みを削っていないか。数字に追われる中で、何が根を育てているかを見失っていないか。削るべきものと、削ってはいけないものを見極めること——それが今の時代に経営者に問われていることだ。
この連載を通じて見てきた構造は、一つの問いに収束する。「自分の半径の中で、何が本当に大切なものを養っているか」。
出典・参考資料
※1 内閣府「経済財政白書」2025年(エンゲル係数 全世帯収入帯で3〜4ポイント上昇)
※2 内閣府「消費動向調査」2026年5月(物価「上がる」93.5%)
※3 デロイトトーマツ「消費者意識調査」2025年4月(n=5,000)
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