乱世を読むということ ── 経営者が持つべき「二つの羅針盤」
乱世を読む ── 経営者のための易経と世界情勢
第1回 / 2026年6月17日|易stratgy.lab
情報に溺れ、判断に迷う経営者のリアル
朝起きてニュースを開けば、昨日の常識を揺るがす国際紛争、為替の乱高下、サプライチェーンの分断といった報道が飛び込んできます。「世界が激しく動いているのは分かる。しかし自社が今日、明日、具体的にどう動けばいいのかが分からない」——多くの経営者が、この焦燥感を抱えているのではないでしょうか。
これは経営者個人の能力不足ではありません。私たちが直面しているのは、単に変化が速いだけでなく、情報の量と判断の質が反比例する、特異な構造の時代だからです。経営者にとって地政学リスクは、もはや遠い世界の話ではなく、日々の経営判断に直結する変数になりました。
情報が多いほど判断が難しい時代
現代は歴史上もっとも情報が手に入りやすい時代です。しかし情報が増えるほど経営判断はかえって難しくなる。その最大の原因は、受け取る情報の多くが文脈から切り離された「点の情報」や「感情的な噂」に過ぎないからです。
出所不明の憶測や、不安を過剰に煽る言説は、一瞬の感情を揺さぶりはしても、企業の進路を決める航海図にはなりません。さざ波(日々のニュース)だけに目を奪われ、その都度急に舵を切れば、船体は疲弊し座礁のリスクが高まります。経営資源が限られる中小企業にとって、点の情報に振り回されて現場を混乱させることは存続に関わる問題です。いま最も危ういのは、客観的な事実と主観的な解釈を混同し、感情的に右往左往することなのです。
二つの羅針盤 ── 客観の「データ」と本質を捉える「易の目」
この時代にぶれない意思決定を行うために、経営者には進路を指し示す「二つの羅針盤」が必要です。現実を直視する客観の目(攻)と、足元を守り抜く大局の目(守)の統合です。
第一の羅針盤:「データの目」(理性の層・攻)
第一は、一次ソースに基づく事実の観測です。噂や感情論を排し、信頼できる国際機関のデータや公的発表を直接確認して、自社の立ち位置を正確に把握します。
たとえば国際通貨基金(IMF)が2026年4月14日に公表した「世界経済見通し」では、2026年の世界経済成長率予測が3.1%とされ、中東情勢の悪化などを背景に1月時点の予測(3.3%)から0.2ポイント下方修正、世界の物価上昇率は4.4%へ高まる見通しが示されました。こうした一次ソースの数値を直視することが、不安や憶測に流されない判断の土台となります。
第二の羅針盤:「易の目」(本質と転換点の層・守)
しかしデータは「過去と現在を切り取った結果」に過ぎず、これから起きる兆しや見えない流れまでは語りません。そこで必要なのが第二の羅針盤、「易の目」です。
易経は神秘的な占いではありません。古来、指導者が言葉や数値に表れない「変化の法則」を読み解き、意思決定を行うために用いてきた思考のフレームワークです。陰と陽のダイナミズムから、「今がどういう時で、自社は何を守り、何を選ぶべきか」を静かに見極める、極めて論理的な思考ツールなのです。
客観的な現実の盤面(データ)と、変化の潮流を捉える東洋の智慧(易)。この二つが車の両輪として揃って初めて、経営者はぶれない二本足で激動の市場を渡ることができます。
卦「観(かん)」── 高い所から大局を静かに「観る」
本連載の入口にふさわしいのが、「観(かん/風地観)」という卦です。風が大地をくまなく巡るように、世の全体像を高い視点から静かに見渡すことを説きます。
混乱やコスト増を前にすると、私たちはつい焦って「何か手を打たねば」と動きがちです。しかし「観」は、足元の泥沼から一歩退き、鳥の目で「この混乱はどのような大きな潮流の一部なのか」を観察せよ、と教えます。霧の中を手探りで急ぐのは危険です。慌てて動く前に、まず正しく「観る」。この姿勢こそ、経営者がいま新調すべき物事の見方です。
連載の見取り図 ── これから何を読み解くか
本連載では毎回ひとつの「卦」をガイドに、複雑に絡み合う世界情勢の盤面と、日本の中小企業が取るべき具体的な「構え」を読み解いていきます。
- エネルギーと供給網の行方:中東リスクや資源の現実をデータから読み、自社の足元の防衛を考える。
- 通貨と市場のダイナミズム:円相場の構造的リスクと金利政策が、資金繰りや輸出入に与える本質的な影響。
- 日本の負担と地固め:国内のコスト増を、いかに自社の高付加価値化へ転換するか。
毎回、世界の動向(陽・現実)と、経営のマインド・社内体制(陰・土台)をバランスよく紐解いてまいります。
結び ── 乱世は「正しく観れば、次の一手が見える」時代
乱世は、不安と恐怖だけを与えるものではありません。大きな乱れがあるということは、古い仕組みが崩れ、新たな変化が芽吹く「転換点」が必ず存在するということです。
「データの目」で現実の盤面を直視し、「易の目」でその裏に流れる時流を読み取れば、次に打つべき一手は自然と、そしてクリアに見えてきます。この連載が、経営者である皆様にとって、日々のニュースの嵐を乗り越え、自社を次なる成長へと導く「二つの羅針盤」となれば幸いです。ようこそ、変革への入口へ。
易stratgy.lab / 経営者のための易学コンサルティング / 2026年6月17日

Comments are closed