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易学が明かす経営者の本質──天地の媒介者という三才の視点

 本質を読む

一流の経営者の多くが、ひそかに東洋哲学や易学を経営判断の軸に据えているという事実をご存知でしょうか。それは「占い」への依存ではありません。2500年以上にわたって受け継がれてきた宇宙の法則──天地人の三才哲学──を、現実の経営に活かしているのです。

なぜ経営者こそ、この哲学を必要とするのか。易経の第一卦「乾為天」を手がかりに、経営者という存在の本質を紐解きます。

天地人三才とは何か──易経が描く宇宙の構造

易経は、この宇宙を天・地・人の三層構造(三才)として捉えます。

  • 天(乾・☰)── まっすぐに上へ向かう、創造と生成のエネルギー。元亨利貞、間断なく万物を生かす純粋な陽の力。
  • 地(坤・☷)── 受けとめ、養い、育てる大地のエネルギー。厚徳載物、すべてを包みこむ包容力。
  • ── 天と地のあいだに立ち、その力を現実世界に顕現させる存在。

この三才の構図において、「人」は天地のエネルギーを受け取り、現実をかたちにする媒介者・創造者です。天の意志と地の力を繋ぎ、生きた経済・組織・社会を生み出す──それが人間の根本的な役割とされています。

そして、この「人」としての役割を最も鮮明に担う存在が、経営者にほかなりません。

経営者が「天地の媒介者」である理由

現代の経営環境は、めまぐるしく変化します。AI、地政学リスク、市場の急変──データが溢れるほど、判断の軸を見失いやすくなっています。

そうした時代に多くの経営者が直面するのが、「正しい情報は持っているはずなのに、決断できない」という問題です。情報の量と判断の質は、比例しません。

易経の三才哲学は、この問いに対して明快な答えを示します。

天の働きは健(やすみなく動く)。君子はこれにならい、自ら強めて息むことがない。

──易経「乾為天」象伝(公田連太郎『易経講話』参照)

天のエネルギーは、止まりません。「元・亨・利・貞」──はじまり、通じ、実り、貫く──この四つの段階を繰り返しながら、万物を生かし続ける。経営者もまた、この天の道を体現する存在として、常に動き続け、状況を読み、決断し、貫くことを求められています。

一方で、地のエネルギー(坤)も不可欠です。組織を養い、人を育て、資産を積み上げ、じっくりと土台を固める力。経営者はその両方を統合し、天地のはざまに「現実の創造」を起こす存在なのです。

乾為天が教える「元亨利貞」──経営の四段階

易経第一卦の乾為天には、「乾は元に亨り、利しきに貞し」という卦辞があります。公田連太郎はこれを次のように読み解いています。

  • 元(はじまり)── ビジョンを打ち立て、根本の意図を定める。善の最上位にある徳。
  • 亨(とおる)── その意図が周囲に通じ、組織が動き出す。礼にかなった集まりの力。
  • 利(みのる)── 事業が実り、価値が生まれる。義と調和した利益。
  • 貞(つらぬく)── 軸をぶらさず、困難のなかでも本質を守り抜く。事を成す幹。

この四段階は、創業から成長・収益・継続という経営のサイクルそのものと重なります。そして重要なのは、「貞(つらぬく)」が最後にくることです。数字が苦しいとき、環境が変わったとき、それでも軸を守ることができるか。ここに、経営者としての本質が問われています。

実践へ──三才の視点で経営を見直す3つの問い

天地人三才の哲学は、抽象的な世界観ではありません。日々の経営判断に、具体的な問いとして活用できます。

  1. 天の問い:自分のビジョンは「元(善の根本)」に根ざしているか?
    表面的な数字目標ではなく、「なぜこの事業を続けるのか」という本質の軸を持っているか。
  2. 地の問い:組織・財務・人材という「地」の土台は整っているか?
    攻める前に守れているか。育てる前に養う器があるか。
  3. 人の問い:自分は今、天と地の媒介者として正しく立っているか?
    外部環境(天)の流れを読み、内部資源(地)を活かしながら、人間として最善の判断を下せているか。

この三つの問いを持つことで、情報の洪水のなかでも、ブレない判断軸を保つことができます。

おわりに──安売りしない理由は、ここにある

天と地を支える人間の役割を、矮小化することはできません。経営者が「自分の価値を安く売る」ことは、三才の構造を崩すことと同義です。

易経の「乾為天」が伝えるのは、「大なるかな乾元、万物 資り始まる」──その源泉の力は、広大無辺であるということ。経営者もまた、天地の力を現実に顕現させる存在として、その位置にふさわしい矜持を持って立つことが求められています。

次回は「坤為地」と経営の「地」の力──組織を養い、人を育てる包容の哲学──を読み解きます。